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福岡地方裁判所 昭和54年(ワ)2381号 判決 1981年2月19日

原告

福田寛

右訴訟代理人弁護士

太田武男

被告

日本電信電話公社

右代表者総裁

真藤恒

右指定代理人

川勝隆之

(他三名)

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する昭和五五年一月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  第1項につき仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  仮執行免脱宣言。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  訴外亡福田ミサ子(以下、亡ミサ子という)は、昭和五二年六月二七日、自己の財産をすべて原告に贈与する旨の遺言をした。

2  亡ミサ子は、昭和一三年二月二一日より被告に雇傭せられ、同五二年六月二八日に死亡するまで被告の職員として勤務していた。

3  亡ミサ子には死亡当時国家公務員等退職手当法(以下、「退職手当法」という)一一条一項に定める「遺族」が存在しなかったから、同女の死亡による退職手当受給権は同女の相続財産に属し、受遺者である原告がその受給権を取得した。

4  亡ミサ子の死亡による退職手当の額は金一、六六九万九、一二六円である。

よって、原告は、被告に対し、右退職手当金一、六六九万九、一二六円のうち金一〇〇万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和五五年一月一一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は知らない。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実のうち、亡ミサ子に退職手当法一一条一項所定の「遺族」が存在しなかったことは認めるが、その余は争う。

4  同4につき亡ミサ子の退職により退職手当が支給されるとした場合の額が金一、六六九万九、一二六円となることは認める。

三  被告の主張

退職手当法によれば、国家公務員等の死亡による退職手当は同法二条によりその「遺族」に支給するものとされており、その範囲及び順序等はすべて同法一一条に規定されている。しかも、同条の規定について考察すると、たとえば、死亡による退職手当の支給を受ける者の第一順位は配偶者であって、配偶者がいれば子はまったく支給を受けないこと、配偶者には内縁を含むこと、直系血族間においても親等の近い父母が孫より先順位となること、父母と養父母については養方が実方に優先すること、死亡した者の収入によって生計を維持していたかどうかによって順位に著しい差異を生ずること、受給権者が給付を受けずに死亡した場合には、受給権者の相続人ではなく、同順位または次順位の遺族が給付を受け、給付を受ける権利は相続の対象とされていないことなど、民法の定める相続人の範囲及び順位等とは著しく異なる内容のものであることが明らかであって、これらは、退職手当法が、民法の相続についての規定とは無関係に、「遺族」の生活保障を主眼として受給権者の範囲及び順位等を合目的的に定めたことを意味し、結局、同法に基づいて支給される死亡による退職手当は、同法所定の受給権者である「遺族」が同法の規定により直接その固有の権利として取得するものと解すべきである。したがって死亡退職者に同法所定の「遺族」が存在しないときには、死亡による退職手当受給権はそもそも発生しないというべきであり、右退職手当が亡ミサ子の相続財産に属するとの原告の主張は理由がない。

四  被告の主張に対する原告の反論

1  退職手当法の定める死亡退職手当には、「遺族」の生活保障としての性格とともに、一種の未払賃金としての性格が含まれているから、右受給権は、一旦は退職者本人の権利として把握されるべきものである。

なるほど退職手当法は、民法の相続人についての規定とは別に死亡による退職手当の受給権者の範囲及び順位等を定めているが、これらは同法所定の「遺族」の生活保障と退職手当支給の便宜を目的とするものであり、この意味において、同法は、一般法たる民法に対し、特別法としての性格を有するものである。したがって、同法に規定する「遺族」が存在しないときには、もはや右のような要請は存しないのであるから、相続法の一般原則にかえって、退職手当受給権は退職者本人の権利として相続財産に属し、相続人または受遺者がその受給権を取得するというべきである。

2  また、日本電信電話公社共済組合福祉施設規程によれば、同共済組合が住宅貸付(規程三〇条)、宅地貸付(同三一条)を行なうにあたり、退職手当法の定める退職手当の額が基準とされており、しかも、右退職手当は被告職員の在職中、「遺族」の有無にかかわらず、一般的に在職年数に応じ退職時に当然受けるべき権利として意識され、被告側においてもこれを担保として取扱っているが、これらも、退職手当が退職者本人の権利として把握されていることを裏付けるものである。

五  原告の主張に対する被告の反論

日本電信電話公社共済組合福祉施設規程は、同共済組合が行なう福祉事業の管理運営に関する必要事項を定めた共済組合内部の事務処理規程にすぎず、右規程の存在をもって原告の主張を基礎づけることはできない。

第三証拠(略)

理由

一  請求原因2の事実及び同3の事実のうち、亡ミサ子には死亡当時退職手当法一一条一項に定める「遺族」が存在しなかった事実については当事者間に争いがない。

二  ところで、原告は、亡ミサ子の死亡による退職手当の受給権は同女の相続財産に属し、原告が遺贈により右受給権を取得したと主張するので、この点について検討する。

1  退職手当法二条一項によれば、被告の職員が退職した場合には同法の規定する退職手当が支給され、死亡による退職の場合には、その遺族に退職手当が支給されることとなっていることが明らかである。そして、同法一一条一項は、退職手当を受ける遺族の範囲を同項一号ないし四号に定める者に限定しているばかりでなく、同条二項においてその受給順位を法定しており、しかも、右「遺族」の範囲及び順位等が被告主張のとおり民法の相続人の範囲及び順位と著しく異なる内容であることを考えると、退職手当法は、死亡した退職者の「遺族」に対する生活保障を主たる目的として右受給権者の範囲及び順位等を独自の立場から合目的的に定めたと解するのが相当であり、死亡による退職の場合、その受給権は、死亡者本人の権利として相続財産に属するものではなく、「遺族」がその固有の権利として同法に基づき直接に取得すると解するのが相当である(最高裁第一小法廷昭和五五年一一月二七日判決民集三四巻六号一三一頁参照)。したがって、同法所定の「遺族」が存在しない場合には、そもそも受給権自体が発生しないと解するのが相当である。この点につき、原告は、退職手当法の趣旨は、「遺族」が存在する場合にその生活を保障し、退職手当の支給の便宜を図る点にあるとし、「遺族」が存在しない場合には、そうした要請はないから、一般相続法上の原則にかえり、退職手当受給権は、本人の権利として相続財産に含まれることになると主張するが、既に判示したとおり、退職手当法は、単に死亡による退職手当の支給対象を定めたに過ぎないものではなく、退職手当受給権の発生自体についての根拠を定めた法規であって、死亡した退職者に「遺族」がない場合には同法による死亡退職手当受給権自体が発生しないというべきであるから、右受給権が本人の権利として相続財産に属するとの原告の主張はその前提を欠き、失当というべきである。

また、原告は、退職手当受給権は本来的には退職者本人の権利であるから、相続財産に含まれるべきであると主張し、その論拠として日本電信電話公社共済組合福祉施設規程の諸規定を援用するが、右規程は右共済組合内部の事務処理のためのものにすぎないうえ、同規程を検討しても、死亡による退職の場合で「遺族」が存しないときに死亡者本人に退職手当受給権が帰属することを根拠づけるような規定は見出せないから、右主張も採用できない。

三  以上のとおりであるから、その余の事実について判断するまでもなく、死亡による退職手当の支払を求める原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柴田和夫 裁判官 寺尾洋 裁判官 亀田廣美)

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